実践者インタビュー・対談2019/08/08UP
竹内治彦 × 戸谷有里子 対談 : 営業をするうえで一番大切なことは
竹内治彦 (株式会社モリサワ元役員)× 戸谷有里子 対談
戸谷:本日はお時間を頂きありがとうございます。
私が、営業時代に影響を受けた竹内さんのお話を、是非多くの方にお届けしたいという思いで今回の対談をお願い致しましたが、心よく受けて頂けとても嬉しく思います。
営業をされる上で一番大切にされてきたこと
では、早速お話をお伺いしたいのですが、
まず、皆さんが聞きたいことだと思いますが、
「営業をされる上で一番大切にされてきたこと」は、どんなことですか。
竹内様:まあ、いろいろあると思うんですね。
いろいろあるのですが、一番大事なのは「会った瞬間」ですね。
戸谷:「会った瞬間!」ですね。
竹内様:そう、「会った瞬間」に営業としての好印象を与えるか、与えないかです。
戸谷:なるほど。
竹内様:というのも、人間は一番最初に入ってきた情報が全てなんです。
その情報がまずければ営業としてはまず失格者と捉えられてしまいます。
最初に、「なんだ、この営業はネクタイ緩めてるし、身だしなみがダメだ」と思われたらその営業がそれを払拭するのに、どれくらい時間がかかると思います?
下手すると一年も二年もかかるかもしれません。
戸谷:とてもわかります!初めについた印象はなかなか消えないですよね。
竹内様:そこは営業としては非常にマイナスになります。
であれば、会ったその瞬間に「好印象を与える」。
これが全ての基本だと思っています。
戸谷:やはり一番大切なことは基本にあるということですね。
私もそう思います。
そしてとてもシンプルですね。
竹内様:そうですね。その「会った瞬間の好印象」ができれば、次に「いかに聴く耳を持つか」ということです。
聴く耳を持つというのは、相手の方にいかにお話をしていただくかということです。
戸谷:なるほど、お話を聴くにはお話いただかないといけませんが、難しく感じる方が多いのですが・・。
竹内様:そうですね。相手をどうして話す気分にするか。相手の気持ちをどう引き出すか。ですよね。
戸谷:はい!
竹内様:まず、聴く耳を持つということだと私は思っています。
こちらが営業をして、売りたいがばかりに、「これいい機械ですよ」と、どんどんいろいろな情報であるとか、助言を言ってしまうのですが、それって一方通行なんですよね。
売るための一方通行。
戸谷:うーん。良かれと思って、やってしまっている感じですね。
竹内様:一方通行ということは、向こうから何も返ってこない状況を作っているんです。
ではなく、何が必要なのか、お客様が何に困ってらっしゃるのか、ちゃんと聴く耳を持って接すること、そこだと思いますね。
戸谷:なるほど。
良かれと思ってお伝えした情報も、お客様にとって必要でなければ無駄な情報ですよね。
多くの営業の方は、お客様のお話を聴いているようで本当の意味で聴いていないのかもしれませんね。
竹内様:ちゃんと聴く耳を持って接すると、物は勝手に売れるんですよ。
戸谷:確かに!おっしゃる通りですね。
竹内様:今の営業って情報をたくさん持っていて、頭も良いですけれども、企画書作ったり、提案書作ったり、すぐそこに走っちゃうんですよ。
戸谷:はい、そうですね。確かに多いように感じます。
竹内様:ちゃんとお話を聴く前に作成しているその企画書、提案書って、そのお客様に対して合っているの?
戸谷:お客様の情報がなければ一般的な内容になっているでしょうね。
竹内様:そうですよね。提案しても、それって間違っているんじゃないのってことになれば、
その時間と労力はもうパァになっていまいます。
もちろん、お客様は何を欲しておられるか、よくお話を聴き見抜いた上で、提案書、企画書を作るのであれば分かるのですけどね。
順番が間違っていることがありますね。
お客様のどういう存在でありたいか
戸谷:お話を聴くということは手間のようですが、お互いの無駄な時間をなくすことでもあるので、とても大切なことですね。
では、お話をお聴かせいただくためにも第一印象がとても重要だと思いますが、そこをもう少しお伺いしたいのですが。
私の中では、竹内さんの印象が、凄く好印象的なんです。
30歳前後の頃、私がいた会社の狭い廊下でご挨拶をさせて頂いた時です。
初めて合った数秒で感じたんですよね。
竹内様:ハハハ。いやいや。
戸谷:その印象ですとか、伝わってくるものはどこからなのかなってと考えさせられ、意識するようになりました。
『断られない!営業の心得』の本にも「ブランディングキーワードをイメージしよう」という項目を書かせて頂いたのですが、これは竹内さんから学んだことを自分なりに考えて取り組んできたことなんですよ。
竹内さんの中ではお客様に対してそのこういう存在でありたいとか、こういう価値を与えられる人としてみてもらいたいとか、イメージされていましたか。
竹内様:そうですね。私の基本は「お客様は恋人と思え。」なんですね。
戸谷:うん!恋人のような存在ですね。
竹内様:やはり、恋人と思うことによって、その相手の気持ちを分かろうとするわけじゃないですか。
戸谷:そうですね。
竹内様:さらに相手の期待に応えたいっていうようなことも感情も湧くと思うんですよね。
そのお客様に対する思いは必ず伝わるはずです。
その思いが伝わって初めて営業になると思うんです。
こちらの思いやスタンスが伝われば、信頼関係が生まれていきます。
私の経験で言いますと、「すべて竹内にまかす。」「まぁ、竹内が言うんだったら物買いますわ。」
となりましたね。
戸谷:すごくわかります。 強固な信頼関係ですね。
竹内様:なんですかね。
そう思って頂ける関係になると、たまには恋人にわがままも言うし、喧嘩もするんですけど・・
戸谷:ハハハ、そっちもリアルに恋人ですね。
竹内様:でも、恋人でしょってことですよね!
戸谷:では、「もぉ竹内が言うなら」と言う、さらにお客様の信頼を得る状態に行き着くまでの間には、具体的な努力とか、こういうことを意識してきたっていうことはありますか。
竹内様:まず「時間を共有する」ことだと思ったんですよね。
そのやり方が、面白いのがね、っていうか私が勝手に面白いと思っているんですけどね。
戸谷:えっ、なんでしょう?
竹内様:長年そうしてきたのですが・・・あるお客様にご訪問していた時のお話です。
ある会社様の社長室に社長様が出てこられる前に、もう私がおるのです。
お客様の社長室の中に…
もちろん、OKはとっていますよ。(笑い声)忍び込んでないですよ。
一応、お客様のOKを取って、で、まぁ先廻りじゃないですけど社長様が出てこられるのをお待ちするんです。
戸谷:えぇ・・! なかなかすごいですね。
竹内様:当然、社長は「なんや」と言われ、とても驚かれてね。
戸谷:そうですね
竹内様:「いやいや社長のご尊顔を拝しに…」とお話をさせてもらいます。その際に、提案や商談などそんな話、一切しないんですよ。
そうこうしているうちに竹内がそこにいるのが当たり前になっちゃうんですよ。
そうすると、システムを考えているからとか、印刷機械の導入や買い替えを考えているとか、すべてご相談はこちらにして頂けるようになります。
戸谷:自然とご相談相手になっているわけですよね。
竹内様:そのお客様には四色印刷機、ゲンサン写植からもっと言うと手動機から、インクまで買っていただいたりしましたね。
億単位で買っていただいたかもしれないですね。
戸谷:そうですかぁ。もう金額のメリットデメリットでないですよね。
竹内様:なぜそうしたかっていう理由っていうのは、当時はよくわからなかったのですけれども、やはりこの「お客様に何ができるか」というところが一つのスタートラインかなと思います。
であれば、まず「時間を共有する」ことだと思ったんですよね。
とは言いながら、当然お客様は9時から5時までは絶対的に忙しくされています。で、弊社の営業が一番間違っているのは、9時から5時までの間にアポイントを取ろうとするんですよ。
戸谷:おっしゃる通りですよね。確かにそうなりますよね。
竹内様:これって間違いでしょ。忙しいんですよ、お互いに。
9時までか、5時以降かそこでちゃんとアポとりなさいよ。したがって……ということです。
今は、労働時間も厳しくなっていますので、難しいところはありますが、相手の都合に合わせる。
そこを徹してないとダメなのかなということですね。
戸谷:相手の都合の良い、余裕にある時間に相談にのれれば、お客様も楽しみにしていただけますね。
余裕があればゴルフの話とか、趣味の話とかにもなりますしね。
竹内様:そうすると、より一層、良い関係になります。
そういう話の中から、価値観や人間性を知ることができます。
戸谷:そうですね。そういう時間こそが大切ですよね。
竹内様:はい。
そういうことをしてきましたね。
自分を動かす原動力
戸谷:なるほど、すごくたくさんの方々と信頼関係築かれた中でお仕事をされて、やりがいがあったでしょうね。
とは言いながら、全国各地を回られて、凄くバイタリティーをもって活動されていたように感じますが、その原動力はどこから湧くのでしょうか?
やっぱりすごく活動的に動かれている方には原動力があると思うのですが、それは竹内さんの場合何になると思いますか。
竹内様:私の場合はやっぱり、闘争心であるとか、競争心であるとかが人一倍強いのかなと… 自己判断すると思います。
営業は50名くらい、現役でやっている時もそれくらいおりましたけど、やはり一番とらないとダメなんですよ。
人生なんでもそうだと思うんですけど、2番じゃダメなんです。
戸谷:あぁ、私、学生の頃陸上やっていた時に言われました。
竹内様:(笑い声)
今の子たちはトップ10に入るとかトップ5に入るとか、
それで満足ししまうのですけど、僕の場合は「こいつには負けたくない」っていう競争心であるとか、自分自身が1番とらないと収まりがつかない。的なことが1番の原動力になっていたように感じますね。
だから、より他の営業社員より多く回るし、まぁ全国回らしてもらってもそうですけども、おそらく、お客様のことをモリサワの営業よりも、一番よくわかっています。
その為に一日最低これだけは回るというのは常に自分の中にはありましたね。
営業の本質を捉えるために必要なこと
戸谷:お話を聞けば聞くほど、積み重ねられた行動が、信頼につながったのがよくわかります。
最後に、竹内さんほどのトップセールスマンになるには時間が必要と思いますので・・
今後営業をやって思っている人や、今頑張っているけれど上手くいってない人たち、その周りの方々に何かメッセージ、アドバイスがありますか。
竹内様:あぁ・・そうですね。非常に難しい質問ですけれども。
結局、「営業職って何」ということだと思いです。
その「営業職って何」ということを、私たち上の人間も同僚も、なかなか若い子たちに教えることができていないんです。
それは何かというと、基本的にコミュニケーション能力がお互いにどんどんどんどん低下していることがひとつの原因だと思います。
上司は、課長だから、部長だからと言って、意識して話をしなくてもいいと思うんですよ。
一番問題なのはそんなことでなく、自分の言葉で声をかける、伝えてあげることだと思います。
今、僕が営業全体を見ていろいろ気になることがある中で、一番気になったのは朝です。
朝、出勤をした時に何か暗い顔をした営業が座っている。
そこで「どないしたんや」と、その時点でちゃんと声をかけられているのか。
風邪をひいたのかな?昨日、飲みすぎたんやろか?と上司が考え声をかけることが大切なんです。
その一言が、「あっ上長、俺のこと想ってくれているんや、見守ってくれているんや」と感じてくれます。
小さなことですが、やはり課長も部長も、上長にはやっていただきたいと思います。
それをすることによってお互いに心が通じる、コミュニケーションの基本だと思います。
戸谷:うん、確かにそういう事ができない上長が多くなっていると聞きます。
竹内様:ちょっとしたことなんですけどね。
戸谷:そうですね。私の場合はかまい過ぎて嫌がられてた部分もありますが・・・(笑)
竹内様:(笑)
自分は自分というか、人と関わる事が苦手っていってしまえば終わってしまうんですけれども、そこは関わっていかないと企業が成長しないと思います。
戸谷:企業はグループでなくチームですからね。コミュニケーションがないと成長どころか・・ですね。
竹内様:「企業は人なり」といいますから、小さなことですが、ちゃんと声をかけてあげるということが一番重要じゃないかなと思います。
戸谷:そうですね。営業で頑張ってもらう為には、頑張れ頑張れではダメですよね。
まず、上司が部下を気にかけ自分の言葉で声をかける。
「自分のこと想ってくれている、見守ってくれている」と部下が安心して頑張れる環境を作ってあげる。
コミュニケーションが取れる状態ができているからこそ、営業職の本質を伝えていくことができるということですね。
そして、部下の方々も自身で「営業とは何か」営業職の本質を考え行動することが大切だと感じました。
今日は、貴重なお話を有難うございました。
竹内様:ありがとうございます。
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今日のお話から、突き抜けた結果を残される方は、テクニックではなく本質的な基本を大切にしていることが改めて感じました。
そしてそれは一時的なことでなく、継続した行動だからこそ大きな力となり信頼、結果につながったのだと感じました。
多くの皆さまのビジネス人生に役立てて頂ければ嬉しく思います。
戸谷有里子
(今回のお話は竹内様が退任されます前にお伺いさせて頂きましたものを、4周年記念に合わせ編集させて頂きました。)